タイのデータセンターは国の電気の半分を求めつつ、100メガワットあたり50人しか雇わない?

こんにちは。夜更かしシリーズ管理人の石葉です。

今回はタイの話題です。データセンターをめぐって、現地のメディアがいくつも数字を出しています。集めていて、三つの数字の組み合わせに引っかかりました。

投資の申請額は、前年の同じ時期からおよそ2.4倍に増えました。
将来の電力需要は、最大で国の発電能力の半分を超えるという見通しが出ています。
ただ、雇用のほうは、100メガワットの規模で50人という試算です。

この三つが、2026年のタイで同時に成り立っています。それぞれ順番に見ていきましょう。

サーバーラックが並ぶデータセンターの内部

1兆バーツが、申請されている

2026年第1四半期のデータセンター関連の投資申請額は、1.01兆バーツに達しました1。前年の同じ時期と比べて、およそ2.4倍に増えています。デジタル分野は48件で、8,737億バーツを占めました。

データセンターとは、インターネットのサービスやAIを動かす施設です。内部には大量のサーバーが置かれています。そうした施設が、これだけの規模でタイに拠点を構えようとしています。

1.01兆バーツは、申請の段階の金額です。企業がタイ政府に対して計画を提出した段階の規模を示しています。実際に投資が実行されたお金が1.01兆バーツに達したわけではありません。計画がすべて実行されるかは、別の問題です。

その電気は、国の半分にあたる

将来の電力需要は、最大で約3万MWに達しうるとエネルギー相のAkanat
Promphanが述べました2。MWは電力の大きさの単位で、1,000kWにあたります。タイの現在の総発電能力は、国全体で約5.5万MWです。

見込まれる需要は、いまの国全体の発電能力の半分を超える大きさです。一方で、計画中の発電のパイプラインは約2.87GWにとどまります。

同じ3万MWという数字を、エネルギー規制委員会の事務局長も挙げています。そちらには条件が付いていて、承認済みのデータセンター事業がすべてフル稼働した場合の見積もりです(前掲の
The Nation による)。

いま現在、3万MWの電気が使われているわけではありません。推計をどう組み立てたかは、どちらの資料にも示されていません。

では、何人が働くのか

投資の申請が増え、電力需要の伸びが見込まれています。その一方で、施設で働く人の数については二つの数字が出ています。

タイの民間の政策研究機関であるタイ開発研究所(TDRI)の試算では、100MW規模のデータセンターの直接雇用はおよそ50人です3。直接雇用とは、施設で直接働く人のことを指します。施設を建設する期間中に働く人は、この数字には含まれません。

一方、Googleは別の数え方を示しています。データセンターの雇用1人が、外部で9人の雇用を支えるという主張です。

この二つは、どちらかが間違っているという関係ではありません。
TDRIは施設の中を数え、Googleは施設の外まで数えています。数えている対象が違うので、両方とも成り立ちます。TDRIの50人にGoogleの倍率を当てれば、外部に450人という計算にもなります。

割れているのは数字ではなく、何を「雇用」として数えるかです。施設の中だけを見るのか、その周りで生まれる仕事まで含めるのか。

ただし、どちらの前提も公表されていません。TDRIがどのような手法で50人を導き出したのかは資料にありません。Googleの9人という倍率の算出根拠も示されていません。Googleの主張は、自社の事業展開に有利な主張でもあります。外の雇用まで含めて何人になるのかは、検算できません。

中央銀行も、同じことを別の言い方で言っていた

タイ中央銀行の金融政策委員会は、2026年8月26日に全会一致で政策金利を年1.00%に据え置きました4。委員会はタイにおける近年の投資の傾向について説明をしています。

近年の投資は、以前より資本集約的になっていると指摘しました。資本集約的とは、人手よりも設備やお金を多く使う形のことです。投資1単位あたりに使う労働者が過去より少ないと説明しています。さらに、失業の増加や契約的な雇用が増える可能性にも言及しました。

ここまでは、8月26日の記者会見で語られたものです。データセンターという言葉は出てきません。

ただし、同じ会合の議事要旨はもう一歩踏み込んでいます。中央銀行が2026年9月9日に公表したその文書では、持ち直している民間投資について、その多くは技術関連の事業とデータセンターへの投資だが、労働をあまり使わず輸入への依存が高いため、雇用と付加価値への効果は過去の投資より低いと説明されていると報じられています5。

議事要旨の原文は確認できていません。報道が伝えている範囲です。述べられているのは、効果が過去の投資より小さいというところまでで、データセンターを止めるべきだという話ではありません。

働く人は増えている。ただし

政府の経済社会計画をつくる国家経済社会開発委員会(NESDC)の報告があります。2026年第2四半期の社会報告によれば、就業者は4,150万人です6。前年の同じ時期に比べて、5.1%の増加となっています。失業率も0.95%と低く、人数にして約40万人です。

しかし、同じ報告のなかには、別の側面の数字も含まれていました。長期失業者が前年同期比で11.3%増え、擬似失業者も8.0%増加しています。

擬似失業者という言葉の定義は、資料に示されていません。働いてはいるが十分に働けていない人を指すとみられます。働く人の総数は増えている一方で、長期の失業や不十分な就労が増えています。

NESDCの報告は、この雇用状況の変化の原因に触れていません。データセンターへの投資が数字を悪化させたという記述もありません。

9月、政府が手を止めた

タイ政府は2026年9月4日、データセンター事業の建設と承認を一時的に止める決定をしました7。対象となるのは、建設中の49件と審査中の117件の、あわせて166件です。

政府は関係機関に対し、経済、社会、環境の面から最低限の基準を策定するよう求めました。期限は1か月以内と設定されています。基準づくりのための保留です。雇用が少ないから止めたとは、資料にありません。

あわせて、データセンターに向けた電力料金の案が検討されています。電力料金を1kWhあたり5〜6バーツとする案です8。家庭用の料金は月200kWhまで1kWhあたり3バーツです。

さらに、系統接続の保証金についても話し合われています。送電網につなぐときに電力会社へ預けるお金です。これを1MWあたり450万バーツとする案が検討されています。電力料金も保証金も、現段階では検討中の案です。

まとめ

電力と雇用。数えている範囲が違う

タイのデータセンターをめぐり、三つの数字が同時に成り立っています。投資の申請額は前年の2.4倍に増え、将来の電力は最大で国の半分を超える見通しです。一方で、直接雇用の試算は100MWの規模で50人という数字です。

その50人を少ないと見るかどうかは、何を「雇用」として数えるかで変わります。施設の中だけを数えるのか、外で生まれる仕事まで含めるのか。どちらの前提も公表されていないので、外まで含めた人数は検算できません。

  • 言えること
    • 1.01兆バーツという投資の申請額
    • 最大約3万MWに達しうるという電力の見通し
    • TDRIとGoogleが示した、数え方の違う2つの数字
    • 近年の投資が資本集約的だという中央銀行の説明と、議事要旨がデータセンターを名指しして「雇用と付加価値への効果は過去の投資より低い」としていること
    • 政府が基準策定のために事業を一時停止した事実
  • 言えないこと
    • データセンター投資と雇用の質の悪化を結びつけること
    • 事業を一時停止した理由が雇用だということ
    • 外の雇用まで含めて何人になるのか

確認できていないこと

  • BOIの投資申請統計そのものの定義や、1.01兆バーツの詳しい内訳
  • 3万MWという将来見通しの推計方法と前提
  • TDRIの「100MWで50人」の試算における前提と手法
  • Googleの「1人が9人を支える」という主張の算出根拠
  • 一時停止の1か月という期限が守られたか、その後の状況
  • 電力料金や系統接続の保証金の案が決定し、施行されたか
  • 「擬似失業者」という言葉の正確な定義
  • 中央銀行の議事要旨そのもの(報道経由でしか確認できていない)
  • 出典はすべて報道に基づいており、一次資料には当たっていないこと

最後に

今回は、タイのデータセンターまわりで出てきた数字を並べてみました。

お金も電力も大きく動きはじめていて、政府も9月にいったん手を止めています。その先に何人分の仕事が生まれるのかは、まだ数え方から揉めている段階です。

今後も調査を深めて、面白いテーマが見つかれば動画やブログ記事にまとめていこうと思います。


  1. Eco-Business “Thailand tightens data centre rules as AI
    boom strains power grid” 2026-08-14, https://www.eco-business.com/news/thailand-tightens-data-centre-rules-as-ai-boom-strains-power-grid/
    / The Nation 2026-08-22, https://www.nationthailand.com/business/tech/40070053
    (いずれも2026-10-18確認)。申請額はタイ投資委員会(BOI)への申請にもとづく報道で、統計そのものの定義・内訳は確認していない↩︎

  2. 前掲注1。同じ3万MWを、2つの媒体が別々の人物の見通しとして報じている。
    Eco-Business はエネルギー相 Akanat Promphan
    が7月に述べたものとして “could reach as much as 30,000 MW” と伝え、The
    Nation はエネルギー規制委員会事務局長 Poonpat
    Leesombatpiboon
    の見積もりとして “if every approved data centre
    project ran at full capacity, demand could approach 30,000 megawatts”
    と伝えている。前提が明示されているのは後者だけ。
    総発電能力 約5.5万MW と計画中 約2.87GW は The Nation による↩︎

  3. 前掲注1の The Nation。TDRI の試算と Google
    の主張を同じ記事が併記している。

    どちらも前提・手法は記事に示されていない↩︎

  4. ThaiPublica 2026年8月, https://thaipublica.org/2026/08/mpc-26-08-2026/
    (2026-10-18確認)。原文は「มีมติเป็นเอกฉันท์ให้คงอัตราดอกเบี้ยนโยบายไว้ที่ร้อยละ
    1.00 ต่อปี」「การลงทุนระยะหลังเป็นลักษณะ Capital Intensive มากขึ้น
    คือใช้แรงงานต่อหน่วยการลงทุนน้อยกว่าในอดีต」↩︎

  5. Thansettakij(ฐานเศรษฐกิจ)「เปิดรายงาน กนง.ห่วงเศรษฐกิจไทย
    ‘โตต่ำ-ไม่ทั่วถึง’ AI หนุนได้แค่ 1-2 ปี」2026-09-09, https://www.thansettakij.com/finance/668554
    (2026-10-18確認)。タイ中央銀行が2026年9月9日に公表した金融政策委員会
    2026年第4回(8月21日・26日開催)の議事要旨
    を伝える報道。原文は「ส่วนใหญ่เป็นการลงทุนในธุรกิจเทคโนโลยีและ
    Data Center แต่ผลต่อการจ้างงานและการสร้างมูลค่าเพิ่มให้เศรษฐกิจยังต่ำกว่าการลงทุนในอดีต
    เนื่องจากใช้แรงงานน้อยและพึ่งพาการนำเข้าสูง」。議事要旨そのものには到達できていない↩︎

  6. Spacebar 2026-08-24, https://spacebar.th/business/social-thai-q2-69
    (2026-10-18確認)。NESDC の2026年第2四半期
    社会報告を伝える報道。報告書本体には当たっていない↩︎

  7. Bangkok Biz(กรุงเทพธุรกิจ)2026-09-04, https://www.bangkokbiznews.com/economics/1250464
    (2026-10-18確認)。原文は「มีมติให้ชะลอการก่อสร้าง
    และอนุมัติโครงการดาต้าเซนเตอร์ที่อยู่ระหว่างดำเนินการ
    และรอพิจารณาเป็นการชั่วคราว」。「一時的に止める(ชะลอ)」であって中止・禁止ではない↩︎

  8. 前掲注1。いずれも検討中の案で、決定・施行は確認していない。系統接続の保証金は
    Eco-Business が「地元報道による」としており、一次確認ができていない↩︎

石葉@四万十。YouTube「夜更かし」シリーズを作りながら、番組になる前の調べものをここに書き留めています。