会社が車を持たないと、お金はどこへ行くのか——配車アプリとドライバーの費用負担

スマートフォンで行き先を入力して、金額を確かめてから車を呼ぶ。しばらく待つと、指定した場所に車が来ます。配車アプリを使ったことがあれば、見慣れた流れだと思います。

ところが、そのサービスを提供している会社自身は、車を持っていません。では、その車を買ったり維持したりするお金は、どこへ行ったのでしょうか。

夜の街を走る車の運転席。ハンドルを握る手と、ホルダーに固定されたスマートフォンの地図画面

この記事では、この疑問をドライバーの側から見ていきます。目的は、企業を告発することではありません。車にかかる費用を、誰がどのように負担しているのか。その配置だけを確認してみようと思います。

そもそも、アプリの会社は何を持っていないのでしょうか

アセットライトという形

アプリの会社は、アセットライトと呼ばれる形で事業をしています。会社が車のような重い資産を持たず、アプリと決済の仕組みで事業を回す形です。自社で大量の車両を買い揃える必要がありません。

通信社のロイターは、GrabやUberをこの形の会社として説明しています1。会社が所有する車両ではなく、主に非従業員が自分の車を使う「より資産の軽い」モデルだという説明です。そしてこれを、自社で車を持つベトナムの配車サービスGreen
SMと対比しています。

アセットライト:プラットフォーム会社はアプリ・決済を持ち、大量の車両は持たない

車にかかるお金は、誰が払っているのでしょうか

消えないコストと配置

車を走らせるには、様々なお金がかかります。車両の購入費、燃料や電気の代金、日々の整備代。さらに保険料や、時間とともに下がっていく車の価値(減価償却)もあります。

車両にまつわるコスト一覧:購入・燃料/電気・整備・保険・価値の下落

会社が車を持たなくなっても、これらのコスト自体は消えません。そのコストの一部は、会社に雇われていない、自分の車で走るドライバーの側に存在します。これは、筆者が資料を読み解いてそう整理している部分です。

プラットフォームの利点と会計の意味

プラットフォーム型の事業には、コストの配置とは別の側面で利点があります。規模を大きくしやすいことや、需要と供給を合わせるマッチングの効率が良いことです。さらに、乗りたい人が増えたとき、柔軟に車の供給を増やせる強みもあります。

こうした利点と並んで、コストの一部がドライバー側に置かれています。ただしこれは、会計上すべてのコストが会社からドライバーへ移転したという意味ではありません。

ドライバーは、何に不満を持ったのでしょうか

収入低下への不満と呼びかけ

2026年9月、ベトナムのGrabドライバーの一部が行動を起こしました。収入が下がったことや、運賃からドライバーに渡る前に差し引かれる分(手数料や控除)の負担に対する不満からです。9月12日から13日の2日間、アプリをオフにするボイコットを呼びかけました2。

これに対しGrab側は、ドライバーコミュニティと対話を行う姿勢を示しました。そこで誤った情報を正すと述べています。

ここで確認できているのは、ボイコットの呼びかけがあったという事実までです。何人が参加したのか、結果どうなったのかは分かっていません。

手数料は、いくらなのでしょうか

2つの異なる数字

ドライバーが負担する金額については、2つの異なる数字が存在します。

数字の種類 内容
報道が伝える基本手数料 バイク20%、車25%(運賃が1,000円なら250円)。これに税などが追加で引かれると報じられている
ドライバー側の主張 報酬体系の変更後、一部の乗車では運賃から引かれる分が最大50%(運賃の半分)に達する

前者は、現地の報道機関が伝えている基本的な手数料の割合です3。後者はあくまでドライバー側が主張している数字であり、Grab側はこれに異論を述べています。これらは性格の違う数字として、分けて考える必要があります。

事故が起きたら、誰が払うのでしょうか

免責と保険の範囲

ここでは、マレーシア版の規約で確認した範囲で説明します。Grabのルールは、利用規約と保険という2つの文書で構成されています。

まず一段目の利用規約は、事故や交通違反、損害について定めています。それらについては、ドライバーが単独で責任を負うと明記されています4。Grab自身は、乗客や第三者への損害・傷害について広く免責(会社が責任を負わないと定めた部分)されます。

次に二段目の事故保険です。Grabはドライバー本人のけがや死亡に備える公式の保険も用意しています。しかしその内容は、死亡や後遺障害、医療費の払い戻しに限られています。補償の対象として挙げられているのはこの3つで、第三者への損害賠償や法的な責任は含まれていません。

規約で責任をドライバー側に置き、保険はその責任のほうをカバーしていないという並びになっています。なお、他の国の規約でも同じ内容になっているかは確認できていません。

会社が車を持っていれば、話は違うのでしょうか

雇用されるドライバーの条件

会社が車を持っているのなら、車が傷ついたときの費用も会社が持つのだろう。そう考えるのが自然かもしれません。では、自社で車を持つGreen
SMの、タクシー部門の採用FAQを確認してみます。

ここのドライバーは、労働契約を結んで固定給で採用されます。車両の保証金は不要ですが、「責任補助金」として800万ドン(約4万8千円)が必要です5。この補助金は、契約を終えるときに全額返ってくる預かり金です。

なお、ドンの円換算は1,000ドン=6円(2026年10月時点)で概算しています。

車が傷ついたときの自己負担

事故が起きた場合のお金について、FAQはルールを定めています。軽微な損傷が起きた場合、その修理費用はドライバーの自己負担です。大きな損傷の場合は、会社の専門家が損害の金額を見積もる査定を行います。そして、その査定額をドライバーが負担することになっています。

ここで確認できているのは、会社の車に乗るタクシー部門の採用FAQだけです。

車が傷ついたとき、費用を負担するのは誰か。Grab・Green SM・日本版ライドシェアの比較

「責任」を2つに分けて考えます

法的な責任と内部の配分

「事故の責任」という言葉には、2つの意味が混ざっています。これを分けないと、「Green
SMは事故の責任をドライバーに負わせている」という事実と違う読み方が生まれてしまいます。誰がお金を払うかを考えるために、これらを分けて整理します。

責任の層 意味
第一層 被害者(乗客や第三者)への賠償責任が誰にあるかという法的な責任
第二層 車が傷ついたときの費用を誰が負担するかという会社とドライバーの間の内部の配分

「責任」は2種類ある。第一層=被害者への賠償責任(法的)、第二層=車の損傷費用の負担(内部の配分)

まず第5章で見たGrabの規約ですが、これは第一層(法的な責任)の話です。乗客や第三者への賠償について、ドライバーが責任を負う形になっています。

次に第6章で見たGreen
SMのルールの話です。車が傷ついたときの自己負担額は、第二層(会社とドライバーの内部の配分)の話です。Green
SMについて、第一層である法的な賠償責任が誰にあるかを記した資料は確認できていません。資料が確認できていないだけで、「会社が責任を負わない」という意味ではありません。

ちなみに日本版ライドシェアでは、利用者と事業者の間で運送契約が結ばれます。そして事業者が運送責任を負うことになっています6。これは明確に、第一層の法的な責任について定めたものです。日本の制度については別の記事で追っています。

→ 2002年の緩和から2024年のライドシェアまで——日本のタクシー規制を資料で追う

第二層である「内部の費用負担」に注目してください。アセットライトのGrabドライバーも、雇用されるGreen
SMのタクシードライバーも、どちらも車の損害費用を負担する側に立っています。モデルの違う2つの会社において、費用負担の配置が同じ側にあったということです。

コストの持ち主はモデルから決まらない

見えない配置への着目

会社が資産を持たないことは、コストをなくすことではありません。
コストの持ち主を変えることでもあります。
そして費用の持ち主は、「アセットライトか、雇用か」というモデルの名前からは決まりません。
これが、今回資料を整理して見えてきた筆者の見方です。

夜のハノイ。高架の道路をバイクと車が行き交う

一見シンプルな仕組みの裏側には、名前だけでは分からない、それぞれ違う費用の配置があります。
新しいサービスの現在地を正しく知るには、こういった見えない配置に目を向ける必要がありそうです。

車やドライバー、配車、責任といった役割を、3つのサービスがそれぞれどこに置いているのか。全体は別の記事で一枚の表に並べています。

→ ライドシェアの先で、誰が何を担っているのか

確認できていないこと

この記事の作成にあたり、以下の点は確認できていません。

  • ボイコットの規模(何人が参加したか)と結果
  • Grabの利用規約のマレーシア版以外の内容(他の国で同じかどうか)
  • Green
    SMのハイブリッド化後の、外部の個人パートナードライバーの契約条件
  • Green SMにおいて、被害者への賠償責任が誰に帰属するか
  • 日本版ライドシェアで、車にかかる費用を誰が負担しているか
  • Grab側が、ドライバーの主張する「最大50%」にどう反論しているかの具体的な中身


  1. Reuters “VinFast-linked taxi firm GSM eyes US, EU
    expansion ahead of Hong Kong IPO” 2026-09-03, https://www.reuters.com/world/asia-pacific/vinfast-linked-taxi-firm-gsm-eyes-us-eu-expansion-ahead-hong-kong-ipo-2026-09-03/
    (2026-09-25確認)。reuters.com 本体へは到達できず、Reuters
    配信を掲載する二次媒体の本文で確認した。

    コストの持ち主という整理は筆者による↩︎

  2. Reuters “Vietnam’s Grab drivers call two-day app boycott
    over falling earnings” 2026-09-10, https://www.reuters.com/world/asia-pacific/vietnams-grab-drivers-call-two-day-app-boycott-over-falling-earnings-2026-09-10/
    (2026-09-25確認)。同じく二次媒体(The Star/Manila
    Times)の本文で確認した。
    媒体間で本文に差があり、Grab
    のコメントを載せない版もある↩︎

  3. VnExpress International “Grab drivers call for strike,
    claiming incomes down” 2026年9月, https://e.vnexpress.net/news/life/trend/grab-drivers-call-for-strike-claiming-incomes-down-5119228.html
    (2026-09-25確認)。ドライバー側の「最大50%」の主張は脚注2と同じ記事による。基本手数料(バイク20%・車25%)は本注の
    VnExpress による↩︎

  4. Grab “Terms of Service: Transport, Delivery and
    Logistics”(マレーシア版、最終更新 2026-06-09), https://www.grab.com/my/terms-policies/transport-delivery-logistics/
    (2026-10-18確認)。ドライバーの単独責任は第3.2.5条、Grabの免責は第21.1条。保険の補償範囲は
    Grab “Complimentary Personal Accident Insurance”(シンガポール版), https://www.grab.com/sg/transport/personal-accident/
    (2026-10-18確認)。規約で確認したのはマレーシア版のみで、他国版で条項が同じかは未確認。同保険のページは「第三者への賠償・法的責任を除外する」と明記しているわけではなく、補償対象として死亡・後遺障害・医療費の3つを挙げているのみ(本文はその範囲で書いている)↩︎

  5. Green SM「Giải đáp thắc mắc khi ứng tuyển tài xế Taxi
    Xanh SM」(Xanh SM タクシードライバー応募時のFAQ), https://www.greensm.com/news/cau-hoi-thuong-gap-khi-ung-tuyen-tai-xe-taxi-dien-gsm
    (2026-10-18確認)。確認できたのはタクシー部門(会社の車・雇用ドライバー)の採用FAQのみ。
    原文は「Công ty không thu cọc xe, tài xế chỉ cần cọc phụ phí trách nhiệm
    8 triệu đồng」「sẽ được hoàn lại khi lái xe chấm dứt hợp đồng lao
    động」。事故時は軽微な損傷が「Tài xế tự thanh toán」、大きな損傷は「Tài
    xế thanh toán khoản tiền theo xác nhận của Chuyên viên」↩︎

  6. 国土交通省
    物流・自動車局長「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱いについて」(国自安第181号・国自旅第431号・国自整第282号)2024-03-29,
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/002013832.pdf
    (2026-10-07確認)。「2.許可基準(4)運送形態・態様について①」に「利用者と事業者の間で運送契約が締結され、事業者が運送責任を負うものであること」と明記↩︎

ishiha

高知在住のシステム/ウェブエンジニア兼ゲストハウスオーナー。 東京から2017年に移住。元地域おこし協力隊。